H24年6月16日 毎日新聞より

 ◇「話し合う時間が大切」 都の施設開業まで8年

 自動ドアが開くと数メートル先に廊下続きの病院が見えた。東京都府中市にある都立小児総合医療センター(都小児センター)3階の渡り廊下。「あちら側が都立多摩総合医療センターです」と都小児センターの西田朗(あきら)院長が指さす。

 大人と子どもに総合的な医療を提供する両センターは共同で「総合周産期母子医療センター」を運営し、約400万人の人口を有する多摩地域で困難な出産などに対応している。

 県がさいたま新都心地区(さいたま市中央区)で目指している、県立小児医療センターとさいたま赤十字病院の連携による「産科と新生児科の一体化」の理想像だ。

  ◇  ◇

 都小児センターは10年3月にオープンした。都立清瀬小児病院と同八王子小児病院、同梅ケ丘病院の3院を統合し、救命救急科など37科を備える多摩地域の小児医療拠点だ。

 新生児医療には特に力を入れ、新生児集中治療室(NICU)が24床、回復治療室(GCU)は48床ある。地下にはドクターカーが待機し、院外出産の新生児も365日24時間態勢で迎えに行ける。

 西田院長は「1500グラム以下の未熟児は特に温度管理が重要。分娩(ぶんべん)室から廊下がつながっていることは大きい」と両センターがつながるメリットの一端を説明した。

 その一方で、共同運営する総合周産期母子医療センターにはセンター長を置く構想は実現しなかった。県病院局によると、大人と子どものセンターの一体的運用は全国に2カ所しかない。困難は少なくなく、両センターは構想からオープンまで約8年の歳月を要した。

 さいたま新都心に移転予定の県立小児医療センターとさいたま赤十字病院の場合、県と日本赤十字社という違う運営主体が総合周産期母子医療センターの共同運営を目指す。「事前によほど話し合いが必要でしょう」と西田院長は指摘した。

  ◇  ◇

 都小児センター開設には、県と同様に統合前の3病院の利用者から根強い反対の声が上がった。だが、年単位の話し合いを経て、八王子病院の跡地に重症心身障害児の通う「小児・障害メディカルセンター」が作られた。重症心身障害児の親らの声を反映させた措置だった。

 同市で重症心身障害児のデイケアを行う「こあらくらぶ」の松井綾子施設長(54)は「市は『常に家族と一緒に考えましょう』というスタンスで、都も最終的には家族の声に耳を傾けてくれた。病院の利用者と自治体がじっくり話し合う時間が大切」と振り返る。

 県立小児医療センターを巡っては、今年2月の定例県議会で上田清司知事が「機能の一部を現在地に残すことも検討していく」と述べ、4月下旬には遅ればせながらも患者家族らへのアンケートが始まった。患者や家族の声をどう生かすか。「子どもの命を守る拠点」整備に、その視点は欠かせない。【西田真季子】