H24年6月15日 毎日新聞より

検証・小児医療:センター移転/中 更地、二転三転の末 /埼玉

毎日新聞 2012年06月15日 地方版

 ◇「なぜ新都心」残る疑問 渋滞や災害時避難も

 東京スカイツリー(東京都墨田区)が華々しくオープンした5月下旬、候補地の一つだった「さいたま新都心8−1A街区」(さいたま市中央区)は静まりかえっていた。犬の散歩をしている人が数人だけ見える。野球場2面ほどの更地は、さいたまスーパーアリーナや高層の合同庁舎が建ち並ぶ近代的な街の中にぽっかり開いた穴のようだ。

 近くに約20年住んでいるという主婦(48)は「コンサートの時に駐車場になる以外は、静かなんですよ」と話す。県立小児医療センター(同市岩槻区)はここに移転する予定だ。

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 JRさいたま新都心駅西側に位置する同地区。約2万4000平方メートルの土地を県(約7400平方メートル)、さいたま市(約2000平方メートル)、都市再生機構(UR)(約1万4600平方メートル)が所有するが、その利用方法は二転三転した。

県と市は当初、地上デジタル放送用の電波塔(現在の東京スカイツリー)誘致を目指した。06年3月に敗れると、商業地作りに転換。その後、三菱地所を中心とした企業グループがフットサル場を備えた「サッカープラザ(仮称)」などの開発計画を決めたが、10年7月に撤退し、同地区の利用方法は宙に浮いた。

 県と市は、URに一体的な開発を申し入れており、URはその後も年約7000万円の固定資産税を払い続けている。県都市整備部の担当者は、「いつまでも(URを)待たせ続けられないと思っていた」と、焦りがあったことを認める。

 企画財政部がセンターを管理する病院局に提案する形で、同地区がセンターの移転候補地に浮上したのは10年秋ごろだった。

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 「(上田清司知事は)自分の任期中に地区を埋めたいと考えたのでは」

 県がセンター移転を正式に発表してから約8カ月後の今年2月に初めて開かれた患者家族向けの説明会では、家族らから、こんな声すら出た。移転発表があまりに唐突に感じられた上に、その後も県側からの説明が乏しかったことに対する不満の表れだった。

子どもたちの症状は急変することもあり、交通渋滞が激しい新都心への移転に不安を感じる家族も多い。移転先の土地が決して広くないことから、新センターは高層化せざるを得ないが、災害時に車いすに乗った子どもたちが迅速に避難できるのかといった疑問も払拭(ふっしょく)されていない。

 なぜ新都心なのか。患者家族らを納得させる答えがないまま、300億円以上をつぎ込む一大プロジェクトが動き始めている。【西田真季子】